第一回(汚された純潔 〜優等生レイプ〜より抜粋)



        *


 深夜の公園は、都会の死角。
 人の気配が途絶えた空間に、荒い吐息と熱い喘ぎ声がこだまする。暗い茂みの向こう側で、一組の男女が重なり合っていた。
 少女は堅いロープで後ろ手に縛られ、尻を高々と掲げる格好をとらされている。抵抗のできない獣の体位で、男が背後からのしかかる。
 くたびれた背広を身につけた三十代の男だった。薄暗い街灯に照らし出されたのは、地味で冴えない容貌。
 対する女のほうは、ハッとするほどの美少女だ。栗色のショートヘアに明るい容姿は、十分に美少女の水準に達している。常に笑顔を絶やさない彼女が、今は恐怖と屈辱に表情を歪ませていた。
「ゆ、許して……お願い」
 少女の懇願が闇の中に空しく溶けていった。ぐちゅ、と湿った音がして、硬い先端部が秘唇にあてがわれた。
「そら、入るぜ」
 ぐい、と腰を押し進められる。ろくに抵抗もできないままペニスが容赦なく潜り込んでいく。
「嫌、やめてっ!」
 彼女──桐原若葉(きりはら・わかば)は絶叫した。
 じりじりと、だが確実に汚らしい肉棒が瑞々しい秘孔を突き進む。やがて、太いクイのような感触が膣いっぱいに収まった。
「へへ、奥まで入ったぜ。俺みたいな冴えないサラリーマンに汚いモノ突っ込まれて、どんな気持ちだ?」
 男が若葉の胎内でピクピクとペニスを動かした。
「うう……ひどい……こんなことって……」
 本来なら相手にもしないような男にあっけなく体を奪われてしまった──
 悔しさをかみ締める間もなく、男の身体が若葉の中でゆっくりと動きはじめた。胎内の奥の奥まで潜り込んだモノが下半身全体をずんっ、ずんっ、と突き上げる。
 処女ではないが、こんなふうに力ずくで犯されるのはもちろん初めての経験だった。
 生まれて初めて、意に沿わぬセックスを強要されている──
「んっ、はぁっ……」
 男が若葉の胸元に手を伸ばした。すでに上衣もブラジャーも取り去られ、豊かな双丘が剥き出しになっている。敏感な乳首を何度も指で弄られると、耐え切れずに喘ぎ声が漏れた。
「うっ、んんっ……」
「おいおい乳首がビンビンに勃ってるぞ。いいのか? 見ず知らずの男に犯されて気持ちいいのか、え?」
 男が愉快そうに叫んだ。
 桃色の結合部には白く泡だった粘液がまとわりついていた。言われたとおり、若葉の体は彼らから与えられる刺激に自然と反応していたのだ。意に沿わぬセックスを強いられているはずなのに、なぜ──


 自分は淫乱な娘なのだろうか?


 そんな疑問は次の瞬間に訪れた快楽の波によって、あっけなく吹き飛ばされた。
 甘やかな痺れが下肢全体に波紋のように広がっていく。若葉はいつのまにか夢中で腰を振っていた。やがて、快感が頂点に達したとき若葉は堪えきれずに叫んだ。
「あぁぁぁっ……イキそう! 駄目ぇ、こんなのって……ああああっ!」
「ううっ……俺ももう出るぞ! グゥゥッ!」
 激しかったピストン運動が緩やかになり、若葉の胎内で肉根がビクビクと跳ねた。
「きゃっ、熱っ……な、中に出てる……駄目っ、イっクうぅぅぅぅっ!!」
 膣いっぱいに注ぎ込まれたスペルマの感触に、若葉はめくるめくオルガスムスへと押し上げられた。どくっ、どくっ……しばらく胎動を続けていたそれは、若葉の子宮に熱い樹液を放出しきると、ゆっくり引き抜かれた。強ばっていた全身の力が抜けていく。ただ彼を迎え入れるため掲げられた尻だけが、ガクガクと震えていた。
 と、そのとき、


 ──かさっ。


 背後で物音が聞こえた。
 若葉と凌辱魔は同時に振り返る。
 街灯に照らし出された人影が、震えて立ちすくんでいる。
 美しい少女だった。
 いかにも優等生然とした、生真面目な印象を与える顔だち。光沢のある黒いストレートヘアが背中まで伸びている。すらりとした長身はいわゆるモデル体型で、若葉と同じ黒い制服がそんな体型によく似合っていた。
「由貴──」
 若葉は息を飲んだ。
 クラスメートで親友でもある、西嶋由貴(にしじま・ゆき)がそこに立っている。
「なっ……」
 美少女……由貴のほうも若葉の姿に驚いたのだろう。つぶらな瞳を見開き、表情を凍らせて後ずさる。
「見たな」
 凌辱魔がゆっくりと立ち上がった。
「見られたからには──」
 ゆっくりと、その手が次なる犠牲者に伸びていく。


        *


 ──時間は少し遡る。
 舞台は名門女子高・白天(はくてん)女学院。早朝ホームルームが始まる前のひとときを、女生徒たちはそれぞれ歓談している。黒い制服は、ミッション系の高校らしく修道服を機能的に改造したようなデザインだ。凛とした印象を与えるそのデザインは、近隣の女子高生や制服マニアから絶大な人気を誇っている。
「最近、直人のやつ、冷たいんだよねー」
 クラスメートで親友でもある若葉の言葉に、由貴は苦笑で答えた。彼女が一ヶ月前から付き合い始めた同級生のグチを言うのは、毎日のことだ。
「この間だってデートの約束すっぽかすし。ま、でも、その後ちゃんとフォロー入れてくれたけどね。前からあたしが欲しがってた指輪、プレゼントしてくれたし」
「プレゼント、へえ」
「あたしの名前もちゃんと彫りこんであるんだよ。見てみて」
 若葉が右手をかざす。小指には洒落たデザインの指輪が輝いていた。
「……愚痴のふりをして、本当はのろけたいだけなんでしょう、若葉」
「あ、わかる? 今が一番楽しい時期ってやつだからね」
 若葉は臆面もなく言い放った。
「彼氏いない歴十七年のあんたにこんなこと言うのは嫌味かしら? うふふふ」
「もう、若葉ったら」
 冗談めかして笑いながらも、友人のことを羨ましいと感じてしまう。
 由貴は十七年間男と付き合ったことはおろか、恋愛の経験も皆無だ。恋に恋する年頃ではあるが、実際に彼女が心を奪われるような相手には出会ったことがない。
「そういえば、由貴って通ってる塾の数、増やしたんじゃなかったっけ」
「ええ、来年は受験だからってお母さんが……」
 今までは週に二日だったのが、これからは週に四日も学習塾に通うことになる。受験に備えて、今のうちから他に差をつけさせようと母親が強引に決めたのだ。
 もっとも由貴も勉強は嫌いではないし、塾に通うことが苦痛と言うわけでもない。
 ただ友人と他愛もない会話をしたり、男の子と──もしそんな相手が現れれば、の話だが──デートもしたい。
「駅前の井川塾でしょ。あそこって、近くに公園があるじゃない」
 若葉が話を続ける。
「最近、あの公園で女の人が襲われたっていうし、由貴も気をつけてね」
「襲われた?」
「この間のニュース、見なかったの。連続レイプ事件ってやつ」
 若葉が説明する。
 最近、この更級(さらしな)市内で、学校帰りや会社帰りの若い女性を狙った連続婦女暴行事件が発生しているのだという。被害者の数はわかっているだけで七人。被害届を出さずに泣き寝入りしている女性もいるだろうから、実際にレイプされた数はその何倍にもなるのではないかと言われている。
 由貴はぞっとした気持ちで顔をしかめた。
「物騒ね」
「連続レイプ魔か……まあ、スリルがあっていいかもしれないけどね。ラブラブえっちばかりじゃマンネリになるし。彼氏以外の男にあんなことやこんなことを……」
 若葉が不意にとんでもない発言をする。
「若葉……」
「冗談よ、怖い顔しないで」
 若葉があっけらかんと笑った。
「処女ならともかく、あたしはいちおう経験済みだからね。たまにはそういう刺激的なエッチもいいんじゃないかなー、って」
「もう、若葉ったら……」
 若葉の初体験は中学三年のとき。現在までの体験人数は三人らしい。
 一方の由貴はセックス経験どころか、男女交際の経験すらない。こんなふうに話していると、劣等感を覚えることがある。由貴は男とまともに会話をするだけで照れてしまうというのに、親友はすでに何人もの男とキスしたり、肌を重ねているのだ。
「由貴って正統派美少女ってかんじなのに、なぜか彼氏できないのよね。不思議ー」
「男の子と話すの、苦手なのよ」
 由貴はため息まじりにつぶやいた。
 ──私、いつになったら彼氏ができるんだろう……


        *


 そして──舞台はふたたび冒頭の公園へと戻る。
「なに、これ……?」
 由貴は呆然とうめいた。塾の帰り道、公園から妙な声が聞こえてきたことに不信感を抱き、立ち寄ったのだった。
 そこで行われていたのは、美少女が冴えない中年男に陵辱される光景。しかも男に組み敷かれているのは──
「若葉……なんで、こんなこと……」
 由貴はごくり、と生唾を飲み込んだ。アダルトビデオの類を一切見たことがない彼女にとって、男女のセックスを目にしたのは、生まれて初めてのことだった。
 栗色の髪を振り乱し、若葉は必死で逃れようとしていた。男はその若葉に背後からのしかかり、いわゆる後背位で犯している。ぐちゅ、ぐちゅ、と性器同士が触れ合う湿った音が、ここまで聞こえてくるようだ。
(レイプされてる……!)
 喉がカラカラに渇いていた。
 体の震えが止まらない。
 どう見ても合意の上での交わりではない。
 助けなきゃ……
 由貴はゆっくりと後ずさる。だが相手は屈強な男だ。スポーツに縁のない自分が出ていっても返り討ちにあうだけだろう。
(そうだ、警察を……)
 警察に連絡しよう。そう思って、ポケットから携帯電話を取り出そうとしたとき、腕が茂みに触れた。


 ──かさっ。


 茂みが揺れる物音は、深夜の公園に異様なほど大きく響き渡る。
「!」
 中年男と若葉は同時にこちらを向いた。
 驚愕したような若葉の顔。
 そして男の──
 細く、濁った瞳。
 ねっとりとした眼光が由貴を射すくめる。
(見つかった……?)
 由貴の表情が固まった。恐怖感が背筋を凍りつかせる。
「由貴──」
 若葉が息を飲んでいる。
「なっ……」
 由貴は驚きに表情を凍らせ、後ずさる。
「見たな」
 凌辱魔がゆっくりと立ち上がった。
「見られたからには──」
 ゆっくりと、その手が伸びてくる。
「に、逃げて……」
 若葉の声が、妙に遠く聞こえる。
 街灯の照り返しを受け、男の体がかすかに揺らめいて見えた。
 凌辱魔に襲われる自分──平凡な生活を送っていたはずの自分が、平凡からはもっとも程遠い状況に放りこまれている。
 現実感の薄い光景だった。
 すべてが悪い夢を見ているようだった。
「巻き添えとは可愛そうだが……お前を犯す。口止め代わりにな」
 男の口の端に笑みが浮かんだ瞬間、由貴の理性はあっけなく崩壊した。頭の中が恐怖で埋め尽くされる。
「ひ、ひいっ」
 かすれた悲鳴とともに、由貴は一目散に逃げ出した。
 親友を置き去りにして。
 ただ、無様に逃げだした。


        *


 由貴は息を切らせて走る。長い黒髪を揺らして走る。
 ただ走る。
 走る。
 走る。
 とにかく人通りの多いところまで逃げなければならない。
 そうすれば安全だ。
 その後で警察を呼ぶのだ。
 若葉を、助けるために。
 と──
「逃げられると思ったか?」
 公園の出口で、暗い影がゆらりと立ち上がる。
「そ、そんな……」
 先ほどの凌辱魔だった。
 あれだけ必死で走ったのに、いつのまにか先回りされてしまったらしい。
「へへへ、親友を置いて自分だけ逃げちゃいけねえな」
 気がつけば男が間近まで迫っていた。あっというまに腕をつかまれ、引き倒される。
 そのまま引っ張られ、先ほどの場所まで連れ戻された。
 犯された若葉が、放心状態で横たわっている。両手だけでなく両脚も縛り上げられ、芋虫のように地面に転がっていた。
「ゆ、由貴……どうして」
 愕然とした親友の顔を見て、由貴はひどい罪悪感を覚えた。
 これは天罰なのだろうか。
 親友を見捨てて、ひとりで逃げ出した自分への。
「どうして、こんなこと……」
 由貴は嗚咽まじりにつぶやいた。
「私たちが何をしたっていうんですか」
「何もしちゃいねーよ」
 由貴はようやく思い出した。最近、このあたりで連続レイプ事件が発生していることに。今日も学校で若葉と話していたばかりだというのに。
 しょせんは他人事だと軽く考え、警戒もしていなかった。
「騒ぐなよ。騒ぐと、せっかくのきれいな顔が一生台なしになるぜ」
 ナイフを取り出し、男が刃先を近づけた。冷たい刃の腹が頬に押し付けられる。
 ひんやりとした感触。
 由貴は恐怖におびえたまま身動きもできなかった。心臓が早鐘のように波打っている。
「俺のことは誰にもしゃべるな。もししゃべれば、学校にいられなくなる」
 由貴は恐怖のあまり声が出ない。
「まずは自己紹介といこうか」
「えっ……?」
「名前だよ、名前。これから犯す女の名前も分からないんじゃ興ざめだからな。俺は自分が犯す女は必ず名前を聞くことにしてるんだ」
 男が言った。
「俺は堂本。で、この女は若葉だ」
「……に、西嶋由貴です」
 由貴はかろうじてそれだけを口にした。
「彼氏はいるのか?」
 凌辱魔──堂本がたずねる。こんなときに何を聞くのだろう、と思っていると、堂本が血走った目でにらみつけた。
「聞いてるんだぜ。質問に答えろよ」
 ドスの利いた迫力のある地声。由貴は電流に打たれたように硬直した。
 ごくり、と息を飲み込み、返答する。
「い、いません……」
「ん、もしかして男を知らないのか」
 男の顔が期待に輝いた。
 由貴は無言でうなずく。
「ってことは、男と手をつないだことも、キスをしたこともないわけだ」
「は、はい……」
「へへへ、そいつはいいことを聞いた。優等生っぽいが、恋の成績は赤点じゃねーか。それじゃ俺と恋のレッスンだな。まずはファーストキスを体験させてやるぜ」
「えっ! い、いやです、そんな……」
 堂本はおもむろに彼女を抱きしめた。
「い、いや、駄目です!」
 両頬をつかまれ、無理やり正面を向かされる。じりじりと焦らすように、冴えない中年男の顔が近づいてくる。
「はじめてのキスは大好きな人とするって決めて……むぐっ!」
 由貴の唇に、無理やり中年男の唇が押し付けられる。つぶらな瞳が信じられない、とばかりに見開かれた。
 ぬめぬめとした肉塊を唇に含んでいるような感触が、不快で気持ちが悪い。最低のファーストキスだった。




 〜第二回に続く〜

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