第三回(汚された貞操 〜人妻レイプ〜 から抜粋)



        *


 堂本修司(どうもと・しゅうじ)と彼女の出会いは、朝のゴミ集積場だった。
「おはようございます、堂本さん」
 カップラーメンやコンビニ弁当などのゴミが入った袋を集積場に投げ入れていると、背後から一人の女が声をかけてきた。
 ハッと息を飲むほど美しい娘だった。
 肩のあたりで切りそろえた艶やかな髪が、朝日をまぶしく反射する。抜けるような白い肌に紅い唇のコントラストが、どきりとするような色気をかもし出していた。清潔そうな白いブラウスがスレンダーな体つきを覆っている。見たところ二十代前半……大学生くらいだろうか。
 これほど近い距離で美人と向かい合い、我知らず胸が高鳴るのを感じる。
「これから出勤ですか? ご苦労さまです」
「えっと……どこかで会ったことあるかな」
 堂本が不思議そうに首をひねった。これほどの美人なら一度会えば忘れないはずだが、彼女の顔には全く見覚えがない。
「女子大生に知り合いはいなかったと思うけど」
「女子大生? 嫌ですね、私、そんな年齢じゃありませんよ」
 彼女がくすり、と上品に笑う。
「主人がいつもお世話になっています」
 深々と頭を下げた。
「主人って……?」
 堂本がぽかん、と彼女を見やる。この女は人妻なのか。あまりに若々しいので驚いてしまう。
「私、御神(みかみ)の家内です」
「御神──ああ、部長の」
 嫌みったらしい部長の顔を思い出し、堂本は露骨に顔をしかめた。
 御神敏仁(みかみ・としひと)。三十代半ばにして部長に抜擢されたやり手だ。同じくらいの年齢で、いまだに係長止まりの彼とは大違いだった。
 ただ、御神の社内での評判はあまり芳しくない。仕事は敏腕そのものだが、他人の失敗に対してまったく容赦がないのだ。
「──でも、どうして俺のことを知ってるんです」
「前に会社の集合写真を見たことがあるので」
 彼女が会釈した。
「篠崎さんや奥村さんのことも存じてますよ」
 名前が出た二人は、いずれも彼の同僚だ。
「あ、申し遅れました。私、御神あずさといいます。そこのエクセルスイートに住んでいるんですよ」
「え、エクセルスイート……」
 超がつくほどの高級マンションの名前を出され、堂本は思わず後ずさった。彼の住んでいる貧乏アパートとは、はっきり言って家賃の桁がひとつ違う。
(ちっ、セレブな奥様ってわけかよ)
 堂本は心の中で舌打ちした。持つものと持たざるものの違い──格差社会、という現実を実感する。
 目を凝らせば、あずさの服装は簡素だがいかにも高級そうな素材だ。結婚指輪に視線をやれば、そちらも高価そうな輝きを放っている。
 対する堂本はといえば、ロクに手入れもしていないボサボサ頭。安手のスーツ。ぼろぼろのネクタイ……と、いかにも小市民然としていた。
(それにしても──イイ女だな)
 と、ふたたび彼女のルックスに目を奪われる。
 見た目は二十代前半くらいにしか見えないが、おそらく実年齢なら二十代後半くらいなのだろう。スレンダーな体つきをしているが、胸や腰周りなどにムチムチと肉が乗っているのが、ブラウスの上からでも分かる。
(こんな美人が、なんであんな上司に──)
 かたや、能力も地位も、おまけにとびきり美人の妻まで手に入れた男。かたや、冴えない中年の独身サラリーマン。
 やはり、どうしても劣等感に囚われてしまう。世の中の不公平さに、ため息が漏れた。


        *


 赤嶺商事の社内は今日も喧騒に包まれていた。社外からの電話応対や社員同士の打ち合わせ、さらには仕事の合間の雑談などで活気にあふれている。そんな中、堂本はひとり暗い顔で説教を受けていた。
「この書類は、昨日までに僕のところへ回してくれって散々言っておいただろう、君」
 部長の御神が嫌味たっぷりの口調で言った。神経質そうに、眼鏡のつるを人差し指で押し上げている。
 鋭い目つきにすらりとした長身。何よりも全身から漂ってくる、人を見下したような雰囲気が、いかにもエリート然としていた。
 後輩たちは、見て見ぬ振りをして仕事に没頭している。下手に関わると、自分までとばっちりを受けてしまう、と言わんばかりの態度だ。
「……はあ、申し訳ありません」
(しょうがねーだろ。いくら何でも仕事の量が多すぎるんだよ)
 気のない謝罪の言葉を告げる一方で、堂本は心の中で反論した。自分の机に目をやれば、うず高く積まれた書類の山が見える。
「締め切りすら守れんのかね、君。新入社員じゃあるまいし『申し訳ありません』じゃ通用しないんだよ。まったく、いい年をしてくだらないミスをしてくれるね、君。いったい今までどういう教育を受けてきたんだか……」
(ちっ、お前はいいよな。これをやれ、あれをやれ、って命令してりゃいいんだから)
 小姑じみたねちっこい小言は延々と続いた。
 些細なミスも許さず、とにかく二言目には部下に文句を言ってくる上司なのだ。御神の性格が原因で辞職した社員も一人や二人ではない。
 だが、文句を言うにも相手が悪すぎた。
 御神は本社の社長の遠縁である。
 本社の名前はブレインガイスト──日本でも最大規模を誇る大企業のひとつ。冗談ごとではなく、その影響力は国を裏から動かしているとさえ言われる。赤嶺商事など、本社系列の末端に過ぎない。
 遠縁とはいえ社長の一族ともなれば、その権力は絶大なものだ。いずれは御神も本社に呼び戻され、ブレインガイストの幹部となるのだろう。万年ヒラ係長の堂本から見れば、天上人といってもいい存在だった。
 と、そのとき、御神のデスクマットに挟んである写真が目に入る。
(あれは──)
 艶やかな黒髪と清楚な容姿が特徴的な美女。
 御神あずさ──
 今朝、ゴミ集積場で出会った若妻のことを思い出した。
(ちっ、会社にまで奥さんの写真を持ってきてるのかよ。まあ、自慢したくなるのは分かるけどな……)
 苦々しく思いながらも、あずさの魅力は認めざるを得ない。
 あれほどの女を妻に迎えられたら、どれほど幸せな結婚生活を送れるだろう。
「……綺麗な奥さんですね」
 ゴマをするつもりで言うと、御神は案の定相好を崩した。
「ん? ああ、妻とは見合い結婚でね。七つ年下なんだが、それなりにうまくやってるよ。気が利くし、今時の女にして貞操観念があってな。
 まあ、君も結婚するなら、あまり軽い女を選ばないようにな。将来不倫するような女は避けるんだぞ。その点、うちのは──」
 小言から一転、今度はのろけだす。
 やれやれ、と堂本はため息をついた。


        *


 社内の廊下を歩いていると、小柄な娘が後をついてきた。
「今日は一段とすごかったですねぇ、部長のお小言」
「まったくネチネチ、ネチネチと……」
 堂本が舌打ちまじりに言った。思い出しただけでも腹が立つ。
「あたしには優しいんですけどね、部長って」
 女子社員があっけらかんと笑う。彼女は会社内で唯一、堂本とまともに接してくれる女子社員だった。
 名前は篠崎桃花(しのざき・ももか)。年齢はまだ二十歳を少し出たばかりだ。鮮やかな赤いリボンでまとめたポニーテールが印象的な娘だった。桃花は、少女時代そのままのキラキラとした瞳で、まっすぐに堂本を見つめてくる。
「まあ、厳しい部分もありますけど、食事に誘ってくれたりもしますし……」
「あいつは女にだけイイ顔をするんだよ。嫌なお小言は、全部俺みたいな男にぶつけてきやがる。露骨に社内人気を意識してやがるんだ」
 堂本が吐き捨てる。
「くそ、俺は完全に怒られ役かよ」
「めげてちゃ駄目ですよ〜。ほら、がんばりましょうっ」
 元気よく叫んで、堂本の肩に軽く抱きつく。軽快な動きに合わせて、ポニーテールが小気味よく揺れた。
(ポニーテールを揺らすより、チチ揺れしたほうが俺としては嬉しいけどな)
 堂本は幼児体型気味のプロポーションを見て、素直な感想を漏らす。
「……どこ見てるんですか?」
「いや、成長しないもんだな、と思って」
「成長?」
「Aカップくらいか……せいぜいBだな」
 女子社員用の制服の胸元を見ながら、堂本が腕組みをする。
 人一倍──いや、人の百倍は性欲旺盛だと自負している彼だが、なぜか桃花を女性として意識することがなかった。
 まるで妹のような……いや、手のかかる娘のような感覚さえあった。
『女』を意識せずに付き合える女。
 と、
「もうっ、セクハラですよぉ」
 桃花が無邪気に怒った。どうやら胸がないのは、自分でも気にしているらしい。
「女はバストがすべてじゃありません〜。貧乳にだって味わいってものが──」
 桃花の抗議を無視して、堂本は今朝方、ゴミ集積場で出会ったあずさのことを思い出した。
 人妻の色気を全身からかもし出すような、むっちりとした体つき。それでいて清楚な容姿。高級そうなブラウスを脱がして裸に剥いてやれば、白い裸体が現れるだろう。
 スレンダーな体の割に豊満な胸のふくらみ。
 そして人妻らしい、まろやかな腰のカーブ。
 その中心部には甘美な花園があるはずだ。
 想像しただけで勃起しそうだった。
「ん、なーんか、目がいやらしいです」
 気がつくと、桃花がじとり、とした目で彼を見ていた。
「御神部長の机に女の人の写真が挟んであったんだ」
 堂本は思わず彼女から目をそらした。
「俺の家内はこんなにイイ女だぞ、って自慢したいのかね、あれ」
「ああ、奥さんの写真でしょう? 綺麗な人ですよね」
 桃花が無邪気にはしゃぐ。
(……上司の妻、か)
 堂本は心の中でつぶやく。
 むらむらと下半身に熱がこもってくる。


 ──あの清楚な顔を快楽に歪ませてやったら、どんなにか痛快だろう──


 上司の悔しがる様子が目に浮かぶ。
(今回はこれでいってみるか)
 堂本のもうひとつの顔……凌辱魔としての本性が鎌首をもたげた。
 一度目をつけたターゲットは、あらゆる手段を使って捕らえ。犯し。味わいつくす。
 それが堂本修司という男だ。
「もう、どうしたんですかぁ。突然黙っちゃって」
「営業に行ってくる」
「もう行くの? いつもは仕事嫌いなのに……」
 桃花が目を丸くする。
「サボりの常連だって、社内では有名なんですよ〜」
「……お前ら、俺のことをなんだと思ってるんだ」
 さすがに憮然となった。
「だって、言っちゃ悪いですけど、営業成績だって……」
「成績のことは言うな」
「うふふ、でもあたしは堂本さんの味方ですからね」
 にっこりと微笑む桃花。
「ちっ、俺はもう行くぞ」
「途中でサボっちゃ駄目ですよ〜」
「……へっ、サボるかよ」
 口の端が邪まな形に釣り上がる。
 ──それはすでに、凌辱魔としての表情だった。


        *


 昼下がりの午後──高層マンション『エクセルスイート』の六階で、御神あずさは洗濯物を干していた。
「ふう」
 洗いざらしのシャツをぱん、ぱん、と音を立てて広げながら、小さく息をついた。
 艶やかな黒髪は肩のところで切りそろえられ、清楚な容姿がくっきりと引き立っている。清潔な白いエプロンを豊満な胸元が押し上げていた。それは十代の少女には決して醸しだせない、成熟した人妻の色香だ。
「女子大生か……私もまだまだいける、ということかしら」
 あずさが冗談めかしてつぶやく。
 今朝、ゴミ集積場で出会った男に、女子大生と間違えられたことを思い出したのだ。あずさは今年で二十八歳になるが、清楚で若々しい容貌のせいか、実年齢よりも年下に見られることが多い。
「あの人に話したら何て言うかしら」
 夫……御神敏仁とは見合いで知り合い、結婚した。
 他人に厳しく、自分にも厳しい。それでいて、いざとなれば全てを包み込む人間的な大きさを兼ね備えている。そんな性格に惹かれてのことだった。もちろん、大会社の社長の遠縁だというステータスも十分に魅力的ではあったが。
 その夫は赤嶺商事のエリート部長として多忙な日々を過ごしている。
 今年で三十五歳。働き盛りだ。特に今は大きな仕事を抱えているらしく、連日のように深夜に帰宅する。
(おかげで、最近はアレから遠ざかってるわね)
 両脚の付け根がきゅん、と疼いた。下腹部を中心にかすかな熱が広がっていく。
(欲求不満なのかな、私……)
 ふう、と熱いため息をつく。
 ──と、そのときだった。
「どうしたんだい、ため息なんてついて」

 闇の底から響くような、不気味な声。

 ハッと振り返ると、一人の男が立っていた。
「どうやってこの部屋に──って顔だな」
 男は目と口の部分が開いた黒覆面をしている。ぎらついた瞳がまっすぐにあずさへと向けられていた。
 男の声には電子的なエコーがかかっている。どうやら覆面に変声機を仕込んでいるらしい。
「鍵が開けっ放しだったぜ。無用心だねぇ」
「な、なんなんです、あなた……」
 声が震えた。
 もしかしたら強盗だろうか。
 それとも変質者だろうか。
 だが頼れる夫は現在、会社にいる。この場には、か弱い若妻ひとりしかいないのだ。
 心臓が早鐘のように打っていた。
「俺か? 通りすがりのレイプ魔さ」
 覆面をかぶった男が不気味に笑う。
「ひっ……」
 男の瞳に宿る尋常ではない欲情を感じ、あずさは思わず後ずさった。金縛りにあったように足がすくんで動かない。
「そそる顔するじゃねーか。わざわざ会社をサボって来た甲斐があったぜ」
 覆面から露出した口元がにやにやと笑っていた。
「あんたみたいな美人は、あの嫌味オヤジには勿体ない」
 あっと思うまもなくあずさは壁に体を押しつけられた。
「何をするの……んぐっ!」
 体をよじって逃れようとしたところで、両肩を鷲づかみにされ、そのまま唇を奪われてしまう。
「んむっ……んんっ……」
 夫以外の男性とのキスなど、大学生のときに付き合っていた恋人以来だった。
(私、夫以外の人とキスしている……)
 思わず、頭がカーッと熱くなる。男が舌を差し入れてくる気配を感じ、反射的に唇をぴったりと閉じた。レイプ魔は閉じ合わさった唇をぺろぺろと丹念に舐める。
「んんんっ……!」
 閉じた唇がわずかにほころんだところで、舌の先が強引に侵入してきた。ぬめぬめとした感触が口内の裏側や舌、歯をたっぷりと舐めまわす。はっきり言って気持ちが悪かった。あずさはつかまれている肩に力を入れて、不快感を堪え忍んだ。
「ふう。この間の女子高生もよかったが、人妻の唇ってのも美味なもんだな」
 唇を離すと同時に、暴漢が襲い掛かった。流れるような動作で、あっという間に組み敷かれてしまう。手馴れている。そんな感じだった。この男は同じような犯行を何件も──あるいは何十件も重ねているのではないだろうか。
 黒覆面から露出する口元が釣りあがり、笑みを形作る。
(あなた、助けて──)
 あずさは絶望に瞳を見開いた。




 〜第四回に続く〜

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